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最強ヒロインたちの等身大ストーリー。 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2004/08/26 00:00

最強ヒロインたちの等身大ストーリー。<Number Web>

 アテネ五輪で初めて正式種目に採用された女子レスリングは、大きく注目される種目の一つである。日本は、4階級のすべてで金メダルが期待できるほどの可能性を秘めているからだ。

 4階級のうち3階級に代表を送り込んだのが、中京女子大学レスリング部である。本書は、中京女子大の3人の選手、55kg級の吉田沙保里、63kg級の伊調馨、48kg級の伊調千春、それぞれの足跡をたどったものだ。

 著者は、男子・女子を問わず、国内はむろんのことアメリカ、中東、ヨーロッパ、世界で行なわれる主要大会をことごとく追い続けてきた、レスリングの「従軍記者」。刊行の動機を、「紹介することで彼女たちに親近感をもってもらうことと、女子レスリングの世界を少しでも知ってほしいという2点」にあると語る。

 企画を提案したとき、その趣旨に選手たちもすぐさま賛同したという。今春、取材はスタート。幾度にもおよぶ選手へのインタビューはむろんのこと、その家族、レスリング関係者などへ取材が重ねられた。原稿を書き上げると、各選手に「計5回は目を通してもらった。メールは数え切れないほど」のやりとりを繰り返した。文章は、選手自らが語っているかのような効果を狙い、一人称で綴られている。それを可能にしたのも、緻密な作業ゆえだ。

 他では読めないエピソードも多い。例えば、代表選考をめぐるもの。今回は、昨年末の全日本選手権、今年2月のクイーンズカップ両方優勝なら代表、優勝者が分かれればプレイオフ、と規定されていた。すんなり代表となった吉田、伊調馨と違い、馨の姉、伊調千春は、クイーンズカップで優勝を逃がし、4月のプレイオフへ進まざるを得なかった。試合に向けて千春がどのような準備をしたか、セコンドについた妹の心境など、これまでの報道にはなかった事実が伝えられている。

 描かれるのは、レスリングのことばかりではない。高校時代、好きだった男子生徒に6回告白して6回ふられたという吉田沙保里のエピソードに象徴されるように、家族とのこと、友人とのことなど、生まれてから代表となった今日まで、3人のライフストーリーがあますところなく綴られている。

 「等身大の彼女たちも知ってもらおうと思いました。彼女たちが特別な人ではないこと、それとともに、レスリングひと筋に生きてきた彼女たちがいかに魅力的か、すべてをですね」

 読み終えると、レスリングに打ち込む中で彼女たちがいかに成長してきたかが読み取れる。それは著者にとっても、取材を通じての発見だった。

 「以前から大会の取材などを通じて知っていましたが、本のための取材に入る前は、もうちょっと子どもっぽい子たちだろうと思っていました。世間知が少し不足しているというか。でも取材を始めてみると、そうではないことが分かった。きっと、五輪代表を懸けた戦いが成長を促した、大人にさせたのかな、と思います」

 女子レスリングは、小誌発売の3日後、8月22日に予選リーグが、23日には決勝トーナメントが行なわれる。

 「シドニー五輪で銀メダルを獲った永田克彦選手(男子レスリング)が、『楽しくて楽しくて、あんなにいい大会はなかった』と語っていました。3人もそういう感想が言えるように頑張ってほしいですね」

■関連コラム► 吉田沙保里、絶対王者の貫禄。 (07/04/25)
► 中京女子大学レスリング部――伊調千春、吉田沙保里、伊調馨(04/08/12)

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