NumberEYESBACK NUMBER

立ちふさがる女王・谷の集中力とDNA。 

text by

城島充

城島充Mitsuru Jojima

PROFILE

posted2005/04/28 00:00

 「誰かに勝とうというのではありません。記録こそが、私の力です」

 4月10日、横浜で開かれた全日本女子選抜体重別選手権48kg級で14回目の優勝を飾った女王・谷亮子(トヨタ)は試合後の会見でそう語った。

 3月下旬にはインフルエンザにかかり、大会の6日前には右手薬指を負傷した。「大会に出場するかどうか、直前まで迷った」という最悪のコンディションだったせいもあるのだろう。スポーツの世界で最も残酷で、おそらく最も劇的でもある「世代交代」「王座陥落」の物語を頑なに拒否し続ける女王の強さが、もはや技術論だけでは語れない領域にあることをこの日も証明した。

 初戦で18歳の新鋭・山岸絵美(三井住友海上)に3つの「指導」を与えて優勢勝ちした谷が準決勝で迎えたのは、3年前の大会で連覇を阻まれた福見友子(筑波大学)。谷の切れのなさを感じた福見は「攻めていけばいい」と積極的に仕掛けたが、女王は一瞬の隙を見逃さなかった。

 開始1分13秒、内股すかしがきれいに決まった。

 「気負いすぎ? 谷選手のうまさだと思います」。試合後、福見はそう声を絞り出すのがやっとだった。

 決勝の相手は3年連続の顔あわせとなった北田佳世(ミキハウス)。谷に次ぐ「ナンバー2」と呼ばれて久しい北田は主導権を譲らず、勝敗はゴールデンスコア方式の延長戦に持ち込まれた。

 どちらかがポイントを奪った時点で勝負が決まる緊張感のなか、朽ち木倒しを狙った谷が北田の足をとりに行く。続いて小内刈りを仕掛けたところで、主審が北田に「指導」を与えた。延長戦わずか27秒。あっけなく、谷の勝利が決まった。

 「流れを自分の方に向けるため、攻めに徹しよう」と積極的にでた谷の勝負勘は賞賛に値するが、敗者となった北田は「あそこで指導をもらうとは思わなかった。自分の中ではここからいこうという感じだったんですが……」と、敗北を受け入れきれない悔しさを口にした。

 積極的に動いた福見はその隙を狙われ、膠着状態に持ち込んだ北田はその姿勢を消極的と判断されて敗北を味わった。「記録こそが力」と言い切る女王のモチベーションを揺るがすにはその記録を断つしかないが、「打倒・谷」という命題を自らの競技生活に重ねざるをえない2人の柔道家は、これまで以上に高くて厚い壁を感じたのではないか。

 「福見は攻めているようで、どこかためらいがあった。百戦錬磨の谷さんは待てる自信というか、勝ち方を知っている。試合の数を減らせば減らすほど負けられない重圧が増えるのに、その集中力は凄い」と、筑波大で福見を指導する山口香は言う。

 一方、北田が涙をのんだ「指導」をめぐっては「ゴールデンスコア方式は柔道をより面白くしようと導入されたのに、あれで『指導』はおかしい。谷に全く非はないが、今日の試合を観ている限り、彼女に勝つのは僅差では無理ということでしょう」と主審の判定に異議を唱える関係者もいた。だが、歴史に刻まれるのは女王が14度目の頂点についたという現実だけだ。

 9月11日にカイロで開かれる世界選手権の出場権を得た谷は、前人未踏の7連覇に挑む。

 「私のなかにあるDNAにいろんなことを聞きながら挑戦したい」

 少しジョークをまじえた抱負は、背中を追ってくる者たちへの高らかな勝利宣言にも映った。

ページトップ