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KIDの敗戦から見えた
総合格闘技の現状とは。
~「何でもあり」だった『DREAM9』~ 

text by

布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

PROFILE

photograph bySusumu Nagao

posted2009/06/12 06:00

KIDはウォーレンの巧みなスタンドレスリングに終始苦しんだ

KIDはウォーレンの巧みなスタンドレスリングに終始苦しんだ

 5月26日の『DREAM9』は、まるでMMA(総合格闘技)が「何でもあり」や「バーリトゥード」と呼ばれていた時代にまで遡り、その進化の歴史を辿ったような大会だった。褒めているわけでも貶しているわけでもない。素直にそう思ったのだ。

 前半戦で組まれたスーパーハルクトーナメント一回戦は、14、15年前のMMA黎明期を彷彿させるシーンが続出した。このトーナメントの売りは無差別級だったが、当時のMMAはそれがスタンダードだったのだ。

 今回は31~58kgもの体重差がある試合だけが組まれ、4試合中3試合は軽い選手の方が圧勝した。力任せの勝負しかできない巨漢と、技術に長けた並みの大男が闘ったら、後者の勝率の方が高い。それは過去の記録が如実に証明している。

 にもかかわらず、今回主催者があえて無差別級トーナメントの開催に踏み切ったのは、もう一度、一般大衆の関心をMMAに向けさせたいと真剣に思ったからだろう。マスの嗅覚に最初に引っかかるのはハイレベルな攻防ではなく、畏怖の念を抱かせるほど人間離れした体格なのだ。

「現代的MMA」を具現化した所の勝利が光る。

 ハイスピードな寝技対決を期待されながら、凡戦に終わった今成正和vs.ビビアーノ・フェルナンデスにも、懐かしさが見いだせる。近年あまり見られない、長い「お見合い」や頻繁な「猪木-アリ状態」。今では少しでもそのような攻防になると、ブーイングの嵐ではないか。今成のように極め技だけに頼る一芸職人にとっては生きづらい時代になってきた。

 現代的なMMAの形を具現化してくれたのは、所英男とエイブル・カラムの一戦だった。最後は所が一瞬たりとも休むことなく動き続けるアグレッシブなスタイルから一本勝ちを収めたが、途中まではエイブルも寝ても立ってもパンチ一辺倒というMMAの本場アメリカで主流のスタイルで真っ向から対抗していた。

KIDの復活勝利を信じて疑わなかったが……。

 J.Z.カルバンとの激闘を制した川尻達也の細かいパンチの精度アップにも目を見張るものがあったが、一番のサプライズは山本“KID”徳郁がジョー・ウォーレンに判定負けを喫した一戦だった。

 決戦前は試合のブランクや右膝のケガの回復具合も心配されたが、誰もがKIDの快勝を信じて疑わなかった。というのもウォーレンはレスリングの元世界王者ながら、肝心のMMAはこの日が2戦め。KIDが得意の打撃戦に持ち込めば、打撃に慣れていないウォーレンは途中で戦意喪失すると予想されていたからだ。

 だったら、なぜアップセットは起こったのか。それはウォーレンが差し合いからのテイクダウンというレスリングで培った自分の土俵にKIDを引きずり込んだからだろう。上半身だけで闘うグレコローマンスタイル出身のウォーレンにとって、四つの攻防はお手の物だった。

“先祖返り”するウォーレンに見出した総合の原点。

 2カ月前の話だ。MMAデビュー戦で勝った翌日、ウォーレンは筆者にKID戦での快挙を暗示するかのような発言を残している。

「かつて私は52試合で480という最多テイクダウンの全米高校記録を樹立した。これからはMMAのテイクダウンの価値を変えてみせる」

 競技化が加速する現代のMMAにおいて、無差別級トーナメントやウォーレンの勝利は流れに逆行しているかに見える。しかし、古いと思われていたスタイルが新しいスタイルを打ち負かして進化し、固定観念が覆され続けてきたのがMMAだ。この興行の全てがすばらしかったとは言えないが、総合格闘技の原点に近い魅力をそこに見出すことはできた。

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