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トリノ行きを決めた上村愛子の成長。 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2005/04/14 00:00

 3月20日、フィンランド・ルカで行なわれた世界選手権デュアルモーグル。3位、表彰台を決めると、関係者とハイタッチをし、喜びを表した。直前のワールドカップ最終戦優勝に続く好成績を挙げ、トリノ五輪代表に内定。上村愛子にとってのそれは、自信をもつこと、自分自身を信じることに取り組んできたこの一年の成果でもあった。

 昨シーズン、自分の技への、ひいては自身への自信喪失から低調な成績に終わった。「本当に嫌なシーズン」だった上村は、自信を取り戻すために、それまで男子だけのものだった3Dの技に女子として初めて挑むことを決めた。

 それは決して容易ではなかった。その技は、体を斜めに倒し、空中で2回転するもの。難度はきわめて高い。表彰式の歓喜の中、ナショナルチームのヘッドコーチを務める高野弥寸志氏は振り返った。

「昨年5月の猪苗代合宿から3Dに取り組み始めたのですが、その後、カナダでの合宿に入ってもできなかった。雪上に叩きつけられるばかりでしたね」

 だがその中で上村の変化を感じ取っていた。

「以前なら、やめていたと思うんです。でも愛子は、『絶対やりきる』と言って、決してあきらめなかった。あのとき、あ、精神的にも強くなったな、と感じました。その成果が今なんだと思います」

 シーズンが始まると、失敗する大会もあったが、「これしかない」というように、3Dに挑み続けた。そしてそのチャレンジは、採点にもそのまま反映した。0.1点刻み、いやもっと小差でも順位を左右しかねない中、成功すれば、エアの点だけで1点以上他の選手を離すようにもなったのだった。

 また、前回の'02年ソルトレイク五輪では、多大な注目などのプレッシャーにやや圧される面もあった。今回、世界選手権前の3月上旬にあった福島・猪苗代での合宿でも思わぬ騒動に巻き込まれた。里谷多英の選手権欠場をめぐり、他の選手が「かわいそう」と心配するほど、連日記者に取材される状況に陥ったのだ。それを跳ね返してのメダル獲得は、トリノでも訪れるに違いない過剰な注目へのシミュレーションにもなったことだろう。その上村について、全日本スキー連盟関係者は、「ジャンプ、アルペンなど、それぞれの種目に期待したが、終わってみれば世界選手権のメダルは上村愛子だけ。問題もいろいろ起きる中、愛子が救ってくれた」と心情を明かす。

 トリノ五輪は、来年2月。3Dで高得点をマークする彼女に刺激を受け、他の強豪選手も、3Dに取り組むと予想される。だが、「1年早く取り組んできた分の完成度、アドバンテージは大きい。これからの愛子は、どんどん勝ちますよ」と高野氏。

 上村は、「ターンが雑ですね。もっとやらないと」と課題を挙げつつも、「(シーズン終盤になって)試合が楽しくなってきましたよ」と来季へ向けて笑顔を見せる。

 モーグルの五輪代表枠は、男女それぞれ4人。上村を除く残りのメンバーは、今年12月に始まるワールドカップなどの成績を見つつ決定する。今季終盤、ワールドカップで表彰台に上った上野修や、世界選手権入賞の益川雄、第一人者の附田雄剛。一方の女子は今季健闘した畑中みゆきらがトリノ行きを狙う。もちろん、里谷多英も、3大会連続メダルを目指し、決意を新たにしている。

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