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サプライズ選出で見えたフランス代表の覚悟。 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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posted2006/06/08 00:00

 イングランドでは、まだ1試合もプレミアリーグの経験がない17歳のテオ・ウォルコットが大抜擢されたかと思いきや、フランスはチャンピオンズリーグで大活躍のリュドビク・ジュリを外す。5月15日に締め切られたワールドカップ本大会登録23人のリストは、それぞれの国の事情が反映され、その中には多くの驚きの選択が含まれていた。

 イングランドの場合は、マイケル・オーウェン、ウェイン・ルーニーという2枚看板の相次ぐ負傷で、スベン・ゴラン・エリクソン監督が、アーセン・ベンゲルの強力な推薦を受けて、未知の可能性に賭ける気になったのだろう。エリクソンはウォルコットの他にも、19歳のアーロン・レノンと21歳のスチュワート・ダウニングのふたりの新人も招集した。本当に適切な選択かどうかはともかく、イングランドという国が若い世代の台頭により、上り坂にあることを示す選手選考である。

 一方、フランスでも、レイモン・ドメネク監督が、フランク・リベリ、パスカル・シンボンダというやはり代表歴のないふたりをリストに入れたが、事情はかなり異なる。23歳のリベリは、フランス・フットボール誌のリーグ平均点ランキング第1位で最優秀選手に匹敵する活躍を見せた。また27歳のシンボンダも、プレミアリーグ'05−'06シーズン・ベスト11。どちらも実績が評価されての、根拠ある選出である。

 日本ではまずあり得ないが、海外では代表歴のない新人が、ワールドカップの最終メンバーにいきなり登録されるのは珍しいことではない。フランスでは前回大会のジブリル・シセがそうであるし、'86年には当時FCブルージュ(ベルギー)所属のジャン=ピエール・パパンが、本大会のグループリーグで先発出場した。

 中盤からフォワードまで、攻撃的ポジションはどこでもこなせるリベリは、ジネディーヌ・ジダンの代役である。昨年8月に代表復帰し、ワールドカップ予選突破の救世主となったジダンであったが、現役引退へのカウントダウンが始まった今、期待と同時に不安も高まっている。

 体力の衰えは隠せない。ジダンが復帰しても、フランスはもはや全盛期には戻れない。それが予選やその後のテストマッチを通じて、フランスに突きつけられた現実だった。ドメネクは、ジダンが動けない、守備ができない、しかも90分もたないことを前提に、チーム作りを進めねばならないのだった。

 ジダン中心のボールポゼッションに問題があるのなら、とるべき途はただひとつ。守りを固めてのカウンターである。幸いフランスには、ティエリー・アンリをはじめシルバン・ビルトール、ルイ・サハ、ジブリル・シセなどスピードも決定力もあるカウンターアタックの駒は揃っている。彼らとのポジション争いに、ジュリは敗れた。

 そしてジダンに疲れが見えたとき、誰をピッチに投入するか。攻撃的なオプションならばリベリというのが、ドメネクの選んだ答えであった。

 正直言ってフランスが幻想を追い求める限り、彼らに可能性はないと思っていた。だがジダンの華麗なパスワークを中心に、異次元の強さを発揮した当時に、もはや戻れないと彼らが気づき、美学を捨てて現実的な戦い方を志向するようになった今、このメンバーならまだまだやれる。

 優勝はともかく、上位進出への光明が、わずかとはいえ見えてきたのかもしれない。

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