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日本男子体操、新旧交代劇の内実。 

text by

浅沢英

浅沢英Ei Asazawa

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posted2007/06/28 00:00

 北京五輪の前哨戦となる9月のシュツットガルト世界選手権。その代表決定最終選考会を兼ねたNHK杯が6月9、10日、千葉ポートアリーナで行なわれた。

 前回五輪で28年ぶりの団体優勝を成し遂げ、五輪連覇が期待される男子体操は、近年稀に見る接戦の代表争いとなった。

 唯一の別格は、すでに代表内定が発表されている冨田洋之。'05年、'06年と2年連続世界選手権の個人総合でメダルを獲得した実績を評価したという内定理由に、異論を差し挟む者はいないだろう。日本体操協会は、積極的に国際試合を重ねてきた冨田のコンディションに配慮して、1月に早々と代表内定を発表した。

 注目すべき、冨田以下の代表争いは、アテネ後に台頭してきた成長株、中瀬卓也がリードする形で進んだ。しかし、最後にその中瀬を逆転して優勝したのは今年度、強化指定外というポジションにいた桑原俊だった。同じく初代表の星陽輔、沖口誠らはまだ大学生。そこに肩の故障から復活してきたあん馬の天才、鹿島丈博が名を連ね、今年の代表6選手が決まった。

 結果、昨年のオーフス世界選手権のメンバーから4人が姿を消すこととなったのだが、代表争いの当落劇のなかで最も意外だったのは水鳥寿思の代表落ちだった。冨田とともにアテネ以降の日本男子体操界を牽引してきた水鳥は、早くも大会初日に優勝争いから脱落してしまったのだ。その後の追い上げも迫力を欠き、結局、接戦のなかに僅差で沈んで、4年ぶりに代表の座を手放すこととなった。印象的だったのは、示唆に満ちた敗戦のコメントである。

 「B得点が厳しくなっているのに驚きました。A得点を伸ばす努力をしてきましたが、B得点で相殺されてしまったという感じです。思ったように差をつけることができなくて、どうしていいのかわからないまま大会が終わってしまいました」

 FIG(国際体操連盟)は昨年、10点満点制の廃止という大幅ルール改正に踏み切った。進化を続けるこの競技を、未来永劫10点満点の枠に押し込め続けることは不可能だと判断したのである。

 新ルールでは、高難度技の積み重ねによって際限なく伸ばすことのできるA得点と、実施のミスを10点満点から減点していくB得点の合計によって競技得点が決まる。水鳥は、ルール改正後初の開催となった昨年の世界選手権での実感から、A得点重視の方向で演技構成を見直してきた。しかし、海外と国内との採点感覚のギャップに、一足早く北京を見据えたはずの方針は、裏目に出る結果となってしまったのだ。

 かねてから、日本の審判は、実施減点への厳しさで知られてきた。つま先まで一糸乱れない正確な演技を求める国内審判は、世界に比類のない美しい体操を育み、それがアテネ五輪で花開いた。しかし、今や大きく変貌を遂げたルール下で、同じ哲学が成功を招くのかどうか。9月のシュツットガルト世界選手権では、五輪連覇へむけた日本チームの戦略が再確認されることになる。

 そして、北京への戦いは、代表入りを巡る国内の争いからも、ますます目が離せなくなってしまった。復活を期すこととなった水鳥だけではない。相次ぐ故障から2年のブランクを余儀なくされてしまったアテネのチームキャプテン米田功も、今秋の復帰を目指している。戦いは、さらに熾烈な様相を帯びて行くことになりそうだ。

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