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ナショナルトレセンが生み出す可能性とは。 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byTakaomi Matsubara

posted2008/02/14 00:00

ナショナルトレセンが生み出す可能性とは。<Number Web> photograph by Takaomi Matsubara

 1月21日、ナショナルトレーニングセンター(NTC)が東京都北区にオープンした。2001年に日本で初めての国立スポーツ拠点として開設された国立スポーツ科学センターの隣の地上3階、地下1階の建物に世界最大の広さを誇る千畳の柔道場をはじめ、体操、卓球など10競技の練習場を設置。周囲には陸上の400mトラック、屋内テニスコート、約250名が宿泊できるビレッジが配されている。NTC事務所に籍を置くJOCの笠原健司氏は「世界最高レベルの施設です」と言う。

 敷地面積の都合、カヌー、ヨットや冬季競技のように競技特性上、作られなかった競技もある。これらは国内にある各競技の優れた施設をトレセンとして定め、資金面で助成を行なう。

 アマチュアスポーツ界は、'64年の東京五輪開催時からNTC建設を訴え陳情を行なってきたが、長年具体化することはなかった。

 流れが変わったのは'96年である。アトランタ五輪で日本は不振に陥り、メダル獲得率(メダル獲得数が全体の何%にあたるかを算定したもの。大会が終わると国別のランキングとともにIOCが発表する)は1.7%と史上最低に終わる。すると政府内に、スポーツの低迷が国民生活に与える悪影響を憂慮する声が出始めた。これを受けて'00年、文部省が作成した「スポーツ振興基本計画」で、日本のメダル獲得率を10年で3.5%にすること、あわせてNTC建設が盛り込まれ、実現へ動き始めた。

 当初は'09〜'10年のオープンを目指したが、'04年のアテネ五輪で日本は史上最多となる37個のメダルを獲得しメダル獲得率は3.98%と計画を早くもクリア。五輪後、官邸への報告の席で当時の小泉純一郎首相にNTCの早期実現を訴えると、小泉首相の鶴の一声で前倒しが決まり、北京五輪への強化に間に合う時期にオープンすることになったのである。

 今後、活用するにあたって課題となるのが利用料だ。例えばハンドボールの場合、年間1637万円。うち国庫補助は1091万円、残りの半分はJOCが助成し日本ハンドボール協会は273万円の負担となる。これまでのハンドボール代表チームの強化費用は数十万円だから大幅増となる。「諸外国はほとんど無料。無料化を文部科学省に訴えていく」(笠原氏)とはいえ、当面実現の可能性は低い。もともと活動資金不足に悩む団体は多いだけに、資金創出の工夫を考えなければならない。

 課題はあるが、NTCの完成はさまざまな事業展開を可能にする。その一つに選手育成事業の「エリートアカデミー」がある。まず卓球とレスリングで始める。現在小学6年、中学1年の子どもたちから有望な選手を選抜。選手は4月からNTCで生活し、建物の向かいにある稲付中学校に通いながらトレーニングに励む。このほか、コーチの研修事業、選手の引退後をサポートするキャリア支援事業も進める。

 むろんトップアスリートにとってこそメリットは大きい。それは充実した練習環境の獲得ばかりではない。

 笠原氏は言う。

 「同じ場所で練習することで競技間の交流ができますから、練習方法や大会へ臨む意識の持ち方を他の競技の選手やコーチから学べます」

 五輪代表の陣容がほぼ固まる5月からは、代表選手たちを同時期にトレーニングさせ、擬似選手村とする計画もある。苦戦と予想する声の多い北京五輪へ向けて、NTCオープンが流れを変えるだろうか。

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