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移籍新ルール実施で、
Jは弱肉強食の時代に。 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byToshiya Kondo

posted2009/08/12 06:00

移籍新ルール実施で、Jは弱肉強食の時代に。<Number Web> photograph by Toshiya Kondo

大分の金崎は標的となるか。新制度でJクラブも変革を迫られる

 Jリーグの新しい移籍ルールが8月1日から「実施段階」に突入する。

 国際基準への移行を求めるFIFAの要請と、選手協会側の強い働きかけによって、契約満了となる選手は移籍金ゼロで自由に他クラブへ移籍できることになった。さらに、契約満了の6カ月前からどのクラブとも移籍交渉できることが選手の権利として認められた。

 Jリーグでは1月31日を契約の区切りとするのが通例で「6カ月前」なら8月1日が交渉の解禁日にあたる。だが、今年に限って8月1日から2カ月間は他クラブとの交渉を認めないという紳士協定が結ばれている。

新ルールは選手間、クラブ間の格差を生む。

 '95年のボスマン判決以降、移籍の自由化が世界的な広がりを見せるなか、選手からしてみれば「やっと世界に追いついた」という思いだろう。しかし、選手全員が新ルールの恩恵を受けられるわけではなさそうだ。J1のある強化担当はこう予測する。

「一部の選手の年俸は高騰するだろうけど、選手間に格差も出てくる」

 不況の波にさらされる多くのクラブはごく限られた選手に資金を注ぎ込む一方、引き締めも図っていくことになる。1軍半以下の選手の年俸を抑制したり、支配下選手数を減らしていく可能性を指摘する関係者は多い。獲得合戦になれば、資金力を武器に選手をかき集められるクラブもあれば、草刈り場となるクラブも出てくるはず。つまりクラブ間でも格差が広がっていくと思われる。

複数年契約を結べば移籍防止にはなるが……。

 新ルール導入で不利益をこうむるクラブに対して、救済策がないわけではない。Jリーグの作業部会では現在、若手が移籍する場合、契約満了でも支払いが発生する「トレーニング補償」の詳細を詰めている。対象の年齢は23歳以下または21歳以下、金額はFIFAの規定に沿って4万ドルまたは6万ユーロの案で検討されている。これに在籍年数を掛け算し、支払い金額を設定するというわけだ。だがこれも、若手を引き抜かれるクラブからすれば焼け石に水程度の救済にしかならない。

 今季限りで大分トリニータとの契約が満了となる20歳の金崎夢生にこれを当てはめてみる。平均基本報酬額を推定2000万円として、従来の移籍係数で計算するなら移籍金は2億円。だが、「トレーニング補償」に置き換えれば、大分の在籍が3年であることから金額は最大でも従来の9分の1程度になってしまう。

 移籍係数の壁がなくなったことで有望な若手の移籍が活発化することは間違いない。ある強豪クラブは、他クラブの若手を調査するために、わざわざ専用スカウトを置くことまで検討している。

 理屈の上では複数年契約を結んでおけば防止策にはなる。とはいえ、台所事情の苦しいクラブにしてみれば、実績の乏しい若手にまで複数年契約を提示することは難しい。1、2年先の予算に見通しが立たない状況では、複数年契約の乱発が“不良債権”につながる怖れもあるからだ。

有能な強化担当やGMが、クラブの命運を左右する。

 スケジュールが前倒しになる分、これまで新シーズンを戦う監督の意向を重視してきたクラブもフロント主導の交渉に切り替えざるを得ない。それに国際ルールにあわせて、移籍市場が開くのは2度に限られることも決定的だ。となれば、情報収集力、交渉力に長けた強化担当やGMが、クラブに必要になってくる。

 新ルールの採用を機に、Jリーグは「共存共栄」から「競争社会」に完全にシフトする。より一層のタフさがなければ、弱肉強食の新しいJリーグを生き抜くことはできない。

■関連コラム► 【経営者から見たJ】 溝畑宏(大分トリニータ社長) (2009年3月26日)
► サッカー界を席巻する札束の力。 [Column from England] (2007年1月18日)

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