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岩村明憲が感じ取った
レイズ変貌の必然。 

text by

津川晋一

津川晋一Shinichi Tsugawa

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photograph byYukihito Taguchi

posted2008/09/04 00:00

岩村明憲が感じ取ったレイズ変貌の必然。<Number Web> photograph by Yukihito Taguchi

 ビデオルームで、選手やコーチよりも熱心に相手チームの映像を分析する男の姿がある。その背中には黄色で『9=8』とプリントが。その主は、強豪レッドソックスとヤンキースを抑えて堂々首位を走るレイズの指揮官ジョー・マドン。

 「転機の年だと踏んだんだ。弱小と言われ続けたこのチームに、今年はあらゆる状況が整ってきたからね」

 球団史上初の地区優勝に向けて絶好のチャンスだと悟ったマドン監督は、自費でチーム全員のTシャツを用意し春季キャンプで配布。『9』人の選手が『9』回を必死で戦えば、プレーオフに残る『8』球団になれるというメッセージだった。

 好調なチームにエピソードがあるのはよくある話で、昨年までのデビルレイズ(エイの一種マンタ)からデビル(悪魔)を取っ払いレイズ(一筋の光明)と名称変更したのも今季から。'98年の創設以来10年間で9度の最下位だった過去の戦績から考えれば、これらは“ちょっといい話”で終わってもおかしくなかったが、快進撃は止まらなかった。2年目の岩村明憲二塁手も「今年に限ってはキャンプ初日からスタッフ全員の目の色が違っていた。選手が新しい気持ちで来るのは当然だけど、裏方さんの意気込みに感じる部分があったね」と、チームの劇的な変化をビビッドに感じ取っていた。

 年俸総額メジャー最下位(昨年)という緊縮財政のなかで若き人材を育成することに腐心し続けた結果、クロフォード、アプトン、ロンゴリア、シールズ、ゴームスらメジャーでは珍しく生え抜きで主力の多くを編成できるまでになった。加えて補強にも成功。「昨年の8月にダニーが戻ってきたときから、すべては始まった」とマドン監督が断言するように、中継ぎの柱としてダン・ウィーラーが加入したことで、アキレス腱のブルペンにも目処が立った。さらに守護神パーシバルと大砲フロイドという、世界一を経験した投打の両ベテランの獲得で、バランスの良いチームが完成。まさに機が熟したことをレイズの誰もが実感したのだ。

 そしてプレーオフの常連、エンゼルスのベンチコーチとして10年間も研鑽を積んだ、監督3年目のマドン自身の采配も常にチームを刺激する。例えば8月7日のマリナーズ戦では初回、2回ともに1死三塁でいきなり前進守備を指示。「あんな序盤で、メジャーではなかなかあり得る作戦じゃない。でも本当に監督が1点勝負と考えたんだね」(岩村)という通り、1対2で惜敗したもののアグレッシブな守備を強く印象付けた。かと思えば10日後のレンジャーズ戦では、4点リードの9回2死満塁でリーグ打点王のハミルトンに対し、押し出し覚悟の敬遠四球という奇策で逃げ切りに成功するなど、フレキシブルなベンチワークも冴え渡る。

 ここへ来てクロフォードやロンゴリアら快進撃のフラッグシップを故障で失い、9月にはレッドソックスやヤンキースとそれぞれ6試合があるなど本当の佳境はこれから。だが、8月18日時点で2位レッドソックスとのゲーム差は4.5まで広がっており、チーム全員が愛用しているTシャツのメッセージ『9=8』の実現に向けて期待は大きく膨らむ。実はこの数字には、岩村も「知らないんです(笑)」という別の意味も隠されているそうで、悲願のプレーオフ進出を果たしたときにその謎が明かされるかも知れない。今季の大躍進と数々のエピソードの合致が決して偶然ではないことを証明するまで、いよいよ残り1カ月。

■関連コラム► “勝利のシンボル”を失ったレイズの行方。 (2008年8月27日)
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