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バンクーバーで輝く
進化した上村愛子。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

photograph byShino Seki

posted2009/03/26 21:30

 ゴールするやいなや、確信したように笑顔で両手を掲げた。ひとときの静寂。電光掲示板に得点が表示されると、「やったー!」と叫んだ。3月7日、猪苗代で行なわれたフリースタイル選手権モーグルで、上村愛子は自身、そして日本選手としても初めての頂点に立った。この結果を受けて、バンクーバー五輪代表にも内定した。

 圧倒的な強さだった。象徴は予選の滑りである。

「コースの状態が本当に厳しくて、(滑る前は)どうなるんだろうと思いました」

 もともと難コースと言われる猪苗代だが、試合前に急に冷えたため雪質が硬くなり、コースの状況はさらに悪化。転倒やコースアウトする選手が続出する中で、上村は果敢に飛ばし、ただ一人30秒を切る28秒88のタイムを記録した。ほとんどの選手が安全に滑ろうとするのに対し、厳しい条件にもかかわらずコブに対して縦に、縦にと攻撃的な滑りで成功したところに、ターン技術の違いが現れていた。

 予選トップで進んだ午後の決勝ではエア、ターン、タイムすべての要素で首位。2点近い大差をつけられ2位に終わったトリノ五輪金メダルのジェニファー・ハイルも「アイコは本当に速くて強かった」と素直に称えた。

 翌日行なわれたデュアルモーグルでも上村は他の選手を引き離す高速ターンで優勝。五輪種目ではないが、2日続けての優勝に充実ぶりがうかがえた。

 上村と他の選手たちのターン技術のレベルの差は、コースが難しければ難しいほど如実に表れるのではないか。そう思えるほど技術が向上した背景には、トリノ五輪後日本代表チーフコーチに就任したヤンネ・ラハテラの存在が大きい。モーグルの歴史に名を残す五輪金メダリストであり、世界の誰もが認めるターン技術の持ち主である。ラハテラの指導を受け、最先端の技術を習得したことが上村の強さになっている。

 ターンという大きな武器を手にしたことは、長年の課題の克服にもつながった。

「これまで大きな大会で勝てなかったのは、精神的な部分で集中できなかったり、失敗したらどうしようと考えていたり、未熟だったと思います。今大会もプレッシャーはあったし、いつも以上に緊張はあったけど、緊張も吹き飛ばすような自信をもてたのかなと思います」

 上村は過去3度、五輪に出場している。高校生で出場し7位入賞した1998年の長野五輪のあと、本気でメダルを狙いに行った'02年ソルトレイクは6位、'06年トリノは5位。ふたつの大会の後、同じ言葉を口にしている。

「今度こそ自信をもって挑めるようになりたいです」

 常に気持ちに弱さを感じていたのである。昨シーズンの年間総合チャンピオンと五輪前年の世界選手権圧勝は、壁を乗り越えられたことを感じさせる。それは、4度目の五輪へ向けての大きな財産である。

 上村に続き、デュアルモーグルで銀メダルを獲得した伊藤みきと西伸幸も五輪代表に内定した。故障の影響であまり公式練習を積めなかった里谷多英も、持ち味のターンでモーグルは9位、デュアルモーグルでは4位に入り健在ぶりを示した。

 優れた指導者のもと、上村をはじめとするモーグル日本代表が楽しみになってきた。

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