NumberEYESBACK NUMBER

バルサの美しき雪辱に、チェルシーも完敗宣言。 

text by

横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

PROFILE

photograph by

posted2006/03/23 00:00

 去る12月、チェルシーとの対戦が決まった瞬間から、バルセロナのメディアやファンはこの日を心待ちにしていた。彼らにとってチェルシー戦はただのリターンマッチではなく、意趣返しであり正義の戦いなのだ。昨年はライカールト、今年はメッシを侮辱した世紀の悪党モウリーニョをやっつけ、バルサの攻撃的で楽しいサッカーがチェルシーの守備的で退屈なサッカーより優れていることを思い知らせてやらねば──。

 しかし、チームにとってはこの試合、あくまで今季の目標・欧州制覇への道である。だから選手やコーチらは盛り上がるメディアに対し、欧州最強の一角チェルシーとは遅かれ早かれ当たるんだ、復讐の念などない、と何度も繰り返していた。

 スタンフォードブリッジのアウェーゲームに1−2と勝利し、ファンがホームでの決戦を指折り数えて待つ間、ライカールトは特別な準備はしていない。小細工なしに、ただバルサ本来のオフェンシブなスタイルを磨き、守備は全員でするものと攻撃陣にプレスのかけ方を教授し、選手の身体的・精神的コンディションをローテーションで調整した。

 一方で、妙な運には恵まれた。最初はチャンピオンズリーグ再開を数週間後に控えた1月末、国王杯のサラゴサ戦で4分間に3失点したこと。これで否が応でも昨季のチェルシー戦の3連続失点とその原因を思い出す。次は3月4日のデポルティボ戦でセットプレーから2点を失ったこと。これで、この手のプレーに注意するようになる。最高のタイミングでミスを犯したおかげで、選手らは本番前に気を引き締めることができたというわけだ。

 さて、ライカールトのバルサ対モウリーニョのチェルシー第4ラウンドは、これまでの3試合同様“スタイルの戦い”となった。「あっちは点を取らなきゃならないんだ、いつもと同じようにはやってこないだろう」というデコの予想は外れ、いつもと同じチェルシーにいつもと同じバルサ。片や守備優先、片や攻撃優先なのだから、これが刀と鞘のようにぴったり収まる。試合開始間もなくバルサは苦もなくボールと試合をコントロールし始めた。

 後半に入り、選手交代を経て流れを掴んだチェルシーだが、かつてないほど慎重に守るバルサはあらゆる攻撃を跳ね返す。そんな中、78分、ロナウジーニョがカルバーリョとテリーという世界最高クラスのセンターバック2人につっかかっていき、これを置き去りにし、チェルシーの闘志を絶つゴールを蹴り込んだ。

 「ロナウジーニョは技術的に素晴らしいだけでなく身体も強い。得点したプレーでは3人をかわし、俺も止められなかった。あのゴールで俺たちの全てが終わった」とテリー。

 ライカールト就任以降最多の9万8436人が詰めかけたスタンドは、この時当夜一番の轟音をたて爆発した。数千を数えたチェルシーサポーターは、ただそこにいるだけだった。

 終了直前の不可解なPKで同点とされたものの、バルサは2試合の合計3−2で準々決勝進出を決めた。

 「バルサとチェルシー、どっちの方が良かったかなんていうつもりはない。去年はあいつらが先に進んだ。今年は俺たちだ」

 自分の無得点はどこ吹く風、チームの勝利を喜ぶエトーは満面の笑顔で応えた。デコも、ラーションも、ライカールトも、嬉しさを隠そうともしない。ロナウジーニョもそう。ただし「これから本当の勝負が始まる」と、兜の緒をキュッと締めた。

関連キーワード
フランク・ライカールト
ジョゼ・モウリーニョ
バルセロナ
チェルシー

ページトップ