スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
スペインの緩すぎるドーピング事情。
サッカー界は潔白を強調するが……。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2011/03/25 10:30
CL決勝トーナメント1回戦、リヨンとのセカンドレグ前日会見に臨むモウリーニョ。ドーピングに関する質問も出た
新聞に掲載されたドーピング検査の現状が騒動の背景に。
今回の一件の背景には、先日スペイン紙『マルカ』が3日がかりで特集を組んだ、スペインサッカー界のドーピング検査の現状レポートがあった。
同紙によれば、スペイン1部リーグでは毎節2試合、各チーム2人ずつがドーピングコントロールの対象となる。これは全20チームの招集メンバー18人、計360人のうち8人しか検査に当たらないことを意味する。22チームで構成される2部も同様で、検査を受けるのは毎節396人のうち8人のみ。国王杯も準決勝2試合と決勝以外は対象試合が抽選で決められる。80チームが所属するアマチュアの3部はコストの問題があるためもっと少ない。
他国と比べると、その緩さは明らかなように思える。イタリア、ドイツ、フランス、イングランドの国内リーグでは、毎節全チームから2選手ずつが検査の対象となる。スペインの8選手に対し、毎節156選手である(フランスは3部までこの規模で行っている)。
現在の検査方法では最新のドーピング技術には対応できない。
また、これはスペイン以外の国もそうだが、サッカー界ではアナボリック剤やステロイド剤、大麻といった旧来のドーピング薬物しか検出できない尿摂取による検査方法しか行われていない。
血中で酸素を運ぶ赤血球を増加させる効果がある「EPO」といった最新のドーピングは、血液を採取して行う別の検査が必要となる。だが、そのためには尿検査の何倍もの時間(4日間)と費用(尿検査の100~130ユーロに対し、血液検査は600ユーロ)がかかってしまう。自転車ロードレースなどの個人競技はまだしも、サッカーのようなチームスポーツではそこまで直接結果に影響を及ぼすものではないとの見解もあるため、現状ドーピングコントロールを統括するスポーツ上級委員会は血液検査の導入を見送っている状況なのだ。
'06年に発足したスペイン国家警察のドーピング摘発作戦「オペラシオン・プエルト」以降、スペインのスポーツ界はドーピング問題に揺れ続けてきた。
昨夏には女子3000メートル障害レースの世界王者マルタ・ドミンゲスらが家宅捜索を受け、今年1月にはフエンテス医師の協力者として取り調べを受けていた元ロードレーサーのアルベルト・レオンが自殺。2月末には複数のステロイド製品を販売していた大規模なドーピング組織が摘発されている。
このような流れの中で、昨年ワールドカップを制したスペイン代表まで疑いの目を向けられたこともあった。彼らはフィジカルに頼らず、技術とインテリジェンスを武器に世界を制したチームだというのに。